TikTokを使わずにゼロ年代の音楽をリバイバルする韓国系アメリカ人アーティストJames Ivy【Virgin Music Japan Picks】

執筆:カジ(Virgin Music Japan Staff)


Virgin Music Japanがインディ音楽シーンで注目され始めたばかりの、気鋭な新人アーティストを紹介する企画「Virgin Music Japan Picks」。4回目となる今回は、国を跨いで多種多様なルーツを引く新世代アーティスト、James Ivy(ジェームス・アイヴィ)を取り上げる。

アメリカ・ニュージャージー出身の韓国系アメリカ人アーティストJames Ivyは、1999年生まれの若干22歳ながら、すでにシンガーソングライター、プロデューサーとして活動するマルチアーティストだ。2021年には、ClairoやCharlie Burg、Zackary Knowles擁するインディー最注目レーベルのFADERと契約し活動をさらにブーストさせた彼だが、活動を始めてからわずか数年で、インディーシーンの新鋭アーティストとして注目される存在に成長している。

音楽を始めたのは15歳。高校時代に、イギリス人アーティストCharli XCXやSOPHIEのプロデューサーとしても知られるA.G. Cookが作ったレーベル/プロデューサー集団「PC Music」から影響を受けて、独学でDIYな制作で楽曲制作を始めた。

Jamesの特徴は、「PC Music+オルタナロック」とも言える、多種多様な時代性を網羅した「ソリッド」な音楽性にある。1990年代のオルタナ・ミュージック、2000年代のポップパンク、そして2010年代の「PCミュージック」に代表されるフューチャーポップやハイパーポップなど、数世代を横断した音楽的影響を受けながら「ベストなスタイル」を追求する創作手法が評価されてきた。

最新曲「Last Star」では、2000年代前半のMTVポップパンクを前面に打ち出した、エヴァーグリーンなポップスを展開。Olivia RodrigoやThe 1975を筆頭に、近年では甘い青春を落とし込んだ「ポップであり、ロック」なスタイル、2000年代初頭のポップ・パンクやポップ・ロックがZ世代のリスナーやTikTokによって再評価される流れが著しいが、こうしたリバイバルムーブメントにおいてもJames Ivyの音楽やクリエイティブなエネルギーは、その系譜を受け継ぎアップデートしており、まさに「時代の人」とも言える。


デビューシングル「Staring Contest」では90年代的なオルタナロックな一面が伺える。イントロの印象的なギター。アコギを用いてライトな空気感を演出しつつ、そこに90年代特有のエモやグランジの泥臭さを絶妙なレベルで織り交ぜるセンス。デビュー作とは思えないほど、圧倒的な世界観にいきなり衝撃を受ける。ネオアコやギターロックをきちんと通過し、自身のスタイルに昇華させる技術が素晴らしい。


カルチャーのリバイバルは、ファッションの分野でも同様の傾向が生まれつつあり、「Y2K」と呼ばれる2000時代特有のDIY感を踏襲しつつもキラキラした多彩なスタイルのファッションが再注目されているが、音楽とファッションという二つのカルチャーの間を密接に行き来するアーティストたちは、常にトレンドを動かす存在として一目置かれている。現代の若者にとって、およそ20年前にあたる「ミレニアム」のカルチャーが最も新鮮かつ共感できるカルチャーの一つであることを様々なトレンドが示しているが、Z世代の気持ちやカルチャー同士の接合点を音楽や動画に落とし込むJamesのセンスは、現代ユースカルチャーを写す鏡のようにも思える。

昨今、多くの楽曲がTikTokユーザーによる投稿でバイラルヒットしているが、JamesはこうしたTikTok発のヒットとは一線を画している。サブスクやYouTube、SoundCloudを経由して、グラスルーツ的な広がりで、楽曲やミュージックビデオはすでにグングンと注目度を高めているのだ。

彼が受けたPC Musicからの影響と、2000年代に通ずるクリエイティブとリリシズムは、他のアーティストからも注目を集め始めている。2021年にはPorter Robinsonの「Something Comforting」のカバーをリリース。SNSでしっかり話題を醸成し、Porter Robinson本人が主催する音楽フェス「Secret Sky Virtual Festival」への出演を果たしている。2021年秋から始まるPorter Robinsonのツアーでオープニングアクトにも決まった。


グングンと注目度を高めていく中、BBC Radio 1やMTV、NYLON、Lyrical Lemonade、The Needle DropことAnthony Fantanoなどの音楽メディアやインフルエンサーに取り上げられ、メインストリームに顔を覗かせるほど勢いを増している。国内外を問わず、音楽そしてファッションを通して幅広く活躍するJames Ivyから今後も目が離せない。



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バイオグラフィー

James Ivy
ニューヨークを拠点にする韓国系アメリカ人シンガーソングライター、プロデューサー。彼のDIYな表現に多大な音楽的影響を与えたイギリスの音楽集団/レーベル「PC Music」と、90年代〜2000年代のグランジ/パンク・ポップ/ポップ・ロック回帰を彷彿する、ハイブリッドなサウンドで注目が集まる。2020年のデビューシングル「Staring Contest」以降、「Yearbook」「Sick」はSpotifyやApple Music、TIDALのインディー系プレイリストでサポートされてきた。2021年はPorter Robinsonのツアーのオープニングアクトや、バーチャルフェスティバル「Secret Sky Festival」への出演を果たす。デビュー以降、Anamanaguchi、Clairo、Snail Mail、Ryan Hemsworthなどのアーティストや、音楽レビュアーThe needle DropことAnthony Fantano、MTVやBBC Radio 1、NYLON、Lyrical lemonadeなどのメディアからサポートを受けてきた。2021年8月に最新シングル「Last Star」をリリース。



作品情報


シングル:「Last Star」
発売日:2021年8月6日(木)
レーベル:Fader Label



◆トラックリスト
1.Last Star

Link

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